オーストラリアのジャビルカ・ウラン鉱山開発問題と私達の電力

清水 菜保子
 私達が毎日使っている電気は、各家庭のコンセントに届くまで遥かな旅を経てやってきます。それが必ずしも安・近・短な旅ではなく、高・遠・危険な旅であり、多くの問題を巻き起こしていることに私達は知らずに日々の生活を送ってしまっているような気がします。
 ここでは、オーストラリアから私達の電力の為に繰り返されている現実をまとめてみました。

(地図1)ジャビルカ鉱山の位置
ジャビルカ鉱山とは?
 ジャビルカ鉱山はオーストラリアの北部のカカドゥ国立公園内に存在します(地図1参照)。このカカドゥ国立公園はなんと四国とほぼ同じ面積を誇り、アボリジニー(先住民族)の文化的な遺跡と雄大な景観、大湿原が育む野鳥や哺乳類、両生類などの豊かな自然のあるところです。その価値あるカカドゥ国立公園は、ユネスコの世界遺産の中でも自然と文化の両方の基準を満たした「複合遺産」に認定されています。(600件ある世界遺産で複合遺産はたったの20件!)そんな公園内のジャビルカ地区には、世界的にも有数の品位の高さと埋蔵量の多いウラン鉱脈が横たわっており、原発の燃料となるこのウラン鉱石を巡り、開発派と反対派の20年以上の闘争があることは日本であまり知られていません。

どんな問題があるの?
 カカドゥのウランが発見されたのは1950年代、その中でもジャビルカの発見は1970年代に遡ります。カカドゥには既に採掘中(一部採掘完了)のレンジャー鉱床そして、採掘準備工事の完了したジャビルカ鉱床、そして開発予定のクンガラ鉱床群が存在します。ここで取り上げるジャビルカ鉱山開発問題には、様々な問題や利権が複雑に絡み合っていますが、現地での大きな問題はアボリジニーの生活の崩壊、そして環境破壊が上げられるでしょう。この土地にはアボリジニーが豊かな自然と何万年も共存してきた伝統的な生活があり、彼らの聖地となる土地や生きる糧の自然を脅かしているのが、ジャビルカ・ウラン鉱山開発なのです。

 ジャビルカ開発の地域にはミラル族という先住民族が暮らしており、その歴史は紀元前4万年に遡ると言う考古学者もいます。彼らは狩猟・採集により自給自足、独自の言語を話し、精神的には土地と深くつながってカカドゥに点在する聖地を代々守り抜いてきていました。しかし20年前に始まったレンジャー鉱山の操業により、土地は奪われ、その代償としての巨額のロイヤルティー(使用料)で生活をすることとなりました。これはアボリジニーの自立を促すものではなく、伝統的な暮らしの崩壊そして深刻な社会問題を引き起こしすことになってしまいました。それを更に決定的なものとするものがジャビルカ鉱山開発でした。ミラル族の精神的文化的よりどころである神聖な土地が侵され、鉱山開発により入ってきたアボリジニー以外(西洋・白人)の社会・政治・経済が伝統的な生き方を崩壊に導くだけでなく、様々なアボリジニーコミュニティーの社会問題の一因となっていると主張しています。例えばアルコール中毒、暴力、慢性健康障害、教育への無関心、構造的貧困、無気力、失望感などです。

 その一方で、ジャビルカ鉱山開発の環境に与える影響が懸念されます。ジャビルカ鉱区はカカドゥ国立公園の真っ只中にあるものの、そこだけ公園の区域、又世界遺産からも除外されています。しかし自然は一体化し、川も湿原も生態系も境界線などあるはずがありません。鉱山からの放射性汚水の流出、採掘・精製の工程で発生する大量のテーリング(鉱滓)の野積みなど、安全な管理がされていると言えない状況です。しかし、なぜこのような数々の問題を引き起こしながらもウラン鉱山開発を推し進めてきたのでしょう。一体誰のために?

私達の電力との深い関係
 カカドゥのレンジャー鉱山も、ジャビルカ鉱山もERA社(Energy Resources of Australia:オーストラリアエネルギー社)が開発を行っています。が、そのERA社に10%の資本参加をしているのが、関西電力・四国電力・九州電力の現地合弁会社である日豪ウラン開発株式会社(JAURD)なのです。先に操業を始めた、レンジャー鉱山から採掘されたウランの3割以上は日本が原発の為に輸入をしており、ジャビルカ鉱山で採掘予定の5割は日本が輸入予定というのです。つまり、ジャビルカ鉱山開発を行うERA社の大顧客は日本の電力会社であり、それを支えているのは私達の電気代ということなのです。

 このジャビルカ・ウラン鉱山開発問題を追いつづけている、京都精華大学の細川弘明氏によると九州電力の場合は原発に装荷される5割前後がカカドゥ産というショッキングな数字を挙げています。オーストラリアという遠い場所での問題から、より現実的なことに目を向けなければいけません。熊本の電気の43%が原子力発電によるものということはご存知でしょうか。もし、九州電力の原発の半分がカカドゥ産のウランとして単純計算すれば、私達の使用している20%ほどの電気はカカドゥを犠牲にして出来たものということになります。この現実を知った時、私は寒気がしました。自分の無知と、この構造的な環境破壊や人種差別に自分の生活が深くかかわっていることに。そして、原発の引き起こす問題はさらに深刻で、世界規模に広がっている事を知るに至ったのです。

(図1)原発の引き起こす世界的な悪循環
原発が引き起こす世界的な悪循環
 ジャビルカ鉱山開発のように、原子力発電を行う為のウラン採掘には多くの犠牲とリスクが払われてきました。そしてそれは原料供給の段階だけではなく、原子力発電を取り巻きながら世界規模での悪循環を引き起こしている現実があるのです。(図1参照)原子力発電についての数々の不祥事や、事故そして経済的・健康的な多大なリスク、絶え間なく発生する廃棄物の処理問題など国内だけでも、原子力発電についての不安材料は溢れかえっています。そして、原子力発電の工程で発生する「劣化ウラン」がアメリカに無償提供され、それが兵器に転用される(た)可能性が否定できない事は、国会での関西電力の弁明からもわかります。劣化ウラン兵器はイラク戦争でも使用され、多くの帰還兵や現地の人々をガン・白血病などの様々な疾病と後遺症に苦しめているだけでなく、戦後に産まれた先天性の障害を持つ多くの子供達の原因と見られています。オーストラリアから日本、アメリカ、中近東と原子力発電を中心とした、世界規模での悪循環。今後どのように立ち切っていけば良いのでしょうか。

現状と今後の課題
  ジャビルカ鉱山開発については、ミラル族を中心にオーストラリア自然保護協会、地球の友といったオーストラリアでの反対運動や細川弘明氏のStop Jabiruka Campaign (ストップ・ジャビルカ キャンペーン)などの根強い運動で1999年から工事はストップ。そしてついに(この原稿を書いている最中のニュース!)、今年の8月1日にERA社により「凍結」されていたジャビルカ鉱山についての現状復帰計画が、北部準州政府により正式に承認されるに至りました!ついにジャビルカ鉱山は、完全撤収となり今年の11月までにはジャビルカの現状復元工事が完了する見通しとなったのです。このウラン鉱山開発により失われたものは多く、かつてのアボリジニーの生活、また生態系の復帰が保障されたわけではありませんが、20数年のアボリジニーの闘いが解決に向かっている事は喜ばしいことです。しかし、世界を見渡すと日本企業の投資するウラン鉱山開発は様々なところでまだまだ行われています(地図2参照)。ヨーロッパ各国にて脱原発の動きが進む中、未だに原発路線を脱せない日本は第2、第3のジャビルカを作っていくのでしょうか?
(地図2)日本の関連する世界でのウラン開発

 現在、風や太陽、地下の熱などによる自然エネルギーの供給率はたった2%です。九州電力はこの自然エネルギーを促進する為のグリーン電力制度を導入しています。私達市民に出来る事はこうしたクリーンエネルギーを積極的に選び、育てていく事だと思います。私達の毎月支払う電気代が、ジャビルカのようなウラン開発、放射性廃棄物の処理といった事に使われるよりも、将来の世代が安心して幸せに暮らせるような技術・インフラの確立に投資につながるよう一緒に1歩を踏み出しませんか?目の届かないところで環境破壊・人種差別という問題を引き起こして届いた電力ではなく、目の前でお日様や風の力で作られたクリーンエネルギーが広がっていくよう、かんくまも来年始めには市民共同発電所の設置事業に協力していく予定です。選択肢を増やしていく事も、そしてそれを選んでいく事も私達の意志と行動次第なのです。
(参考資料)
1)Australian Conservation Foundation(オーストラリア自然保護協会)ホームページ
2)九州電力熊本支店ホームページ゙
3)電気事業連合会ホームページ
4)名古屋商科大学 鎌田真弓教授ホームページ
5)細川弘明「豪州ウラン開発問題と日本の関わりーvol.1〜5」
  京都精華大学人文学部環境社会学科ホームページより
6)細川弘明「ジャビルカ通信」、Save Kakadu ホームページより
7)美浜の会ホームページ
8)ミラル族ホームページ

かんくま通信44号(2003/08/18)に掲載

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