地下水涵養プロジェクト
熊本の豊かな水環境を守るために、多くの団体が活動しています。環境ネットワークくまもと(以下、かんくま)は、「水循環」を守ることが大変重要な課題であると考えています。
熊本はその周辺住民70万人が地下水を飲料水としていることから、水に関する環境保護活動が活発です。1998年にかんくまは、水問題に関して取り組んでいる市民団体・行政・企業の活動をまとめた書籍、「水防人物語」(クリック)の編集・制作へ中心的に参画しました。
この作業から多くの真摯な取組みを知り、地下水を含む水の問題を多面的に理解するきっかけになりました。農業と水には密接な関係がありますが、5年ほど前から新しく水田と地下水の関係が明らかになってきました。
●日本一の地下水都市・熊本
熊本地域は、熊本市66万人、周辺15市町村を含めると96万人の全生活用水が地下水で賄われる、日本一の地下水都市です。また、この地下水は農水省分類の「ナチュラル・ミネラルウォーター」に該当するなど、質的にも極めて優秀です。
●豊かな地下水を育む、白川中流域の水田
長年の九州東海大学および関係者の地道な調査から、上記のように白川中流域の田畑における地下水涵養の重要性が明らかになっています。この付近一帯の水田による涵養が、熊本の江津湖・嘉島の湧水群へ大きく関係していると言うことです。これは、降雨量と地下水水位との相関関係とは別の相関指標(コメの拡大生産期から現在の減反期への移行で減少してきた水田の面積との相関関係)が見られたことから、推論されたものです。

この地域の水田は、16世紀末に肥後藩主となった加藤清正から約1世紀をかけて開田されたもので、通常の3〜10倍もの透水性をもつ"ザル田"であったために、大量の灌漑水(=白川の水)が地下水に転化し、水前寺、江津湖、浮島などに湧出し、"水の都"の礎(いしずえ)となりました。
かんくまは会員へ呼びかけて、地下水研究会主催の地下水涵養の現地見学会+学習会へ参加し、菊陽・大津地域の水田と熊本市内の湧水の関係を学びました。
いわゆる「ざる田」を見学しました。田んぼに水が入れられているのですが、半分にも溜まっていません。「今朝はじめたのだな」と思いきや「もう数日経っている」ということです。まさしく、「ざる」のようです。
白川中流域の水田による地下水かん養量は現在、1日当たり70〜80万tと推計されますが、これは熊本市上水道の1日平均給水量約25万tのほぼ3倍に相当します。
さらに、量的な面だけでなく、火山地帯に水源をもつため水道水質基準を超えるフッ素分を含む白川の水が、水田を経て下流の水源地に湧出する間に、「ナチュラル・ミネラルウォーター」と呼ばれるまでに水質浄化が行われています。白川中流域の水田は、まさに"天然の浄水場"なのです。
●「白川中流域」(地図を参照)

ここが白川中流域の地域です。白川にいくつもの堰を設けそこから井出を引きここら一帯の田畑が利用しています。また、絵は水田からの涵養を示しています。こうして、農地からの涵養が行われてきたのです。
●水田からの涵養の仕組み(絵を参照)

ここの水資源管理は「大菊土地改良区」を中心に行われています。土地改良区の方々は、この重要性を認識されており、具体的な涵養手法について検討がなされています。これらの地図や絵はそこからお借りしたものです。
●先人の遺産を未来へ
熊本地域の地下水は、水田のもつ多面的機能を活用して自然と人間がつくりあげた「奇跡的なシステム」と言えるでしょう。しかし、"コメ離れ"や後継者不足により、水稲の作付面積は30年前の半分近くまで減少しており、この状況が続けば地域にとってかけがえのない財産である地下水にも、必ず深刻な影響が出てくると予測されています。
ここの地域で涵養を行う事への問題点は、以下の通りです。
・輸入作物が増え、国産農業が衰退していること。
・国の減反政策(減反率約50%)から、意欲があってもコメを作ることができないということ。
・宅地や開発で田畑面積が縮小していること。
私達は、先人たちが築き上げたこの歴史的遺産を、今後も末永く引き継いでいく責務があります。そのためには、古来から育まれてきた「米」中心の食生活を再評価するとともに、農村環境の保全を都市部の住民が支援していくことが必要です。
●ソニーの工場進出と地下水保全
「環境ネットワークくまもと」は「水環境会議熊本」と連名で、Sony熊本が立地する際、「地下水の使用と保全について」の公開質問状を出しました。Sonyさんからは真摯な回答をもらい、双方とも環境ネットワークくまもとのホームページに掲載をしています。
▼拝啓ソニー殿、新工場の環境負荷はどれだけですか?(2001年3月)
▼環境ネットワークくまもと殿、ご回答申し上げます。(2001年5月)
●企業とのパートナーシップ
上記の情報公開から始まった企業とNGOの関係ですが、6月は環境月間ということで、6/4(火)にソニーの環境月間キックオフセレモニーと工場内の環境対策設備案内が企画され、かんくまは環境NGOとしての招待を受け、参加しました。(かんくま通信38号で報告)
各来賓の挨拶の時間があり、かんくまは環境保護活動の紹介を行いました。締めくくりに「地下水を守る活動を一緒にやりましょう」とパートナーシップの呼びかけを行ったところ、ソニーセミコンダクタ九州の社長から「一緒にやりましょう」と応答があり、具体的な提案ができる状況となりました。
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| かんくま「一緒にどうですか?」 |
Sonyさん「やりましょう。」 |
●具体的な提案(企業田による地下水涵養)
熊本の地下水の研究をされている「熊本地下水研究会」にご協力いただきながら、ソニーさんが要望される「環境対応でも世界一」への具体的なアプローチとして、以下の点について提案をしました。
1.環境負荷の低減案として
ソニー熊本TECにて使用している地下水量(年間約80万トン)について、進出地元である、菊陽・大津地域の水田において同じ量を涵養することで、環境負荷を「ゼロ」にできるのではないか?(おそらく、日本初の取り組みとなる)
2.地域貢献として
その田畑で取れた作物を「地産地消」の考え方を元に、ソニーさん内(例えば社員食堂)で使うことはできないか?
この2点を目的としてご提案し、ソニーセミコンダクタ九州株式会社・環境戦略室の方々、熊本地下水研究会とかんくまでその手法について検討を重ね、地元の大菊土地改良区や菊陽町役場、JAさん調整をして来ました。
その結果この春(2003年度)から、JAさんのコメの有機栽培と併せて協力農家を探して実施する運びとなりました。最初は、使用水の100%とは行きませんが、これをきっかけとして、徐々に涵養量を拡大していく方向で検討が継続されています。
このことは、企業とNGOとのパートナーシップが可能なこと、企業の水使用という環境負荷を低減する可能性があること、農業の多面的な機能を支援して支えること、積極的な地産地消、など、多くの可能性を示しています。ぜひ、多くの企業でも可能な限り取り組んで頂きたいと思います。
(かんくま通信42号掲載)
●いよいよ涵養が始まりました
6月に入り本格的な梅雨模様となってきました。
心配されていた参加農家も増え、Sony熊本TECで使用される年間80万トンの地下水に対して、同量の地下水涵養の可能性がでてきました。今まで何も無かった地点から、初年度から全量達成であり、画期的なことではないかと思います(喜)。
6月24日(火)には、雨天の晴れ間をぬって、導水記念田植えイベントも実施されました。
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| Sony松本副社長ご挨拶 |
JA菊池の西本さんご挨拶 |
関係者一同で記念撮影 |
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| 松本さん、初めの一苗 |
関係者で記念田植え |
畑地涵養の一部 |
今回の涵養は、〔白川中流域土地改良区協議会〕と〔JA菊池〕のご協力により、実施にこぎ着けています。
★白川中流域土地改良区協議会★
国の減反政策を行う地区では、ニンジンなどの稲作以外の作物を植えますが、その作付けの合間をぬって、水張りを行って頂くというものです。涵養期間は6月中旬〜7月中旬で、本年度約24haの参加があり、約70万トンの涵養がが見込まれています。
★JA菊池★
1.有機米稲作後の涵養
今年度は、減反率の告示が遅いため募集期間が短く、有機米を作った後(10月下旬から11月下旬)に涵養して頂ける農家は1軒のみとなりましたが、その農家(宮川 洋さん)に拍手を送りましょう!
涵養面積は約2,800m2で涵養量は約8,500トンの小規模ですが、出来るお米は約1.2トンで、Sonyさんの社員食堂で使われる予定です。地産地消の新しい形ですね。
2.減反田での水張り
土地改良区協議会と同様に減反された田で人参等の作付け前に水を張れる農家を募集され、涵養面積は3.5haで約10万トン程度が期待出来ます。涵養期間は6月中旬〜7月中旬です。
●地下水も喜ぶ、Sony涵養田の「収穫祭」(お米ができました!)
9月の長雨で日照不足が心配されましたが、後半の晴れ間で何とかお米の実が入ったようです。
今日(2003/10/7)は地下水涵養へ唯一水田(お米)として参加された、宮川さんの田で稲刈り(収穫祭)が行われました。
Sonyさんの涵養田が第一年目の収穫を迎えました。田んぼでご協力いただいた菊陽町・農家の宮川さん曰く、今年は日照不足もあって例年の9割程度の実の入りだそうです。でも、一面に稲穂が頭をたれているところをみると嬉しくなります。
ちょっと早めに9:30に現地に行きました。ちょっと寒いぐらいの感じでしたが、私が最初だったようです。しばらく稲穂をながめつつ、ここまでの経過をふり返りました。
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| たわわに実りました。Sony涵養田のお米です。 |
最初にSonyセミコンダクタ九州・総務の佐藤さんから、今回、ニンジン植え付け前の土壌線虫防止では多くの農家の参加があり、Sonyさんの年間使用量80万トンに対し、減水深10cmとしても、90万トンの涵養があったと、報告を兼ねたご挨拶がありました。
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| Sony佐藤さんが代表でご挨拶 |
宮川さんです |
次にNGO来賓という私の挨拶は、私たちは循環の中で生き・・・、持続可能な企業とは・・・、考えが多くてまとまらず余り上手な挨拶はできませんでしたが、「熊本市民を代表して関係者へお礼を申し上げます」と、しっかりお礼を申し上げました。
JAさんも挨拶し、その後、今回唯一のコメ(水田)による涵養へ参加の農家、宮川さんからの先導で関係者10名ほどが数株ずつ刈り取りました。宮川さんは、とてもいい顔をされています。「今度、小学生へ水田と涵養の関係を、教えんといかん」そうです。総合学習の授業で田植えと稲刈りや熊本市内の小学生との交流など行われているようです。
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| 後は機械で刈り取ります |
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今回採れたお米の量は少なく、社員食堂ではあっという間ですが、熊本TECだけではなく、Sonyさんの別事業所の鹿児島や長崎へも一部送られると言うことです。Sonyさんの玄関には、数株の稲穂がオブジェとして飾られるそうです。実は私の家の玄関にも飾っています。稲穂は見ているだけでも良いものです。
熊本市は、来年度から、地下水涵養域にあたる白川中流の大津町、菊陽町と提携し、県、JA菊池、関係土地改良区と共に「白川中流域水田活用推進協議会(仮称)」を発足させ、農家に水田から転換した畑などに一定期間水張りしてもらう、地下水保全事業に取り組みます。本格的な涵養が始まる予感に、期待がふくらみます。
かんくまでは、来年度に向けて他の会社の参加を募集しています。本田技研工業・熊本製作所(大津町)や東京エレクトロン九州(菊陽町・合志町)に、涵養事業への参加を要請する文書と資料を正式にお渡ししました。本田技研のご担当者は「本社で検討する」ということでしたが、さてさてどうなりますやら。
●試食会(Sony涵養米を食べました) 2003年11月11日
Sony涵養田で採れたお米を食べる試食会へご招待があり、参加しました。
Sonyさんの社員食堂では、社員さんへの啓発と還元という意味で、3日間の特別メニューが提供されていました。
その一日へご招待を頂いた訳ですが、少し感動しました。
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| 水の恵みをいただきます。 |
坂井さんの特大盛り(笑)美味しそう |
今回の涵養への参加は農家一戸でしたので、収穫量はそう多くなく、3日となったようです。
廊下に貼り出された大きなポスターには、実施の意義(意味)と効果、唯一参加された農家宮川さんの写真、収穫風景などが掲載されていました。これは、社員さんへの環境教育の意味も大きかったのだろうと思います。
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| 食堂前通路に貼り出されたポスター |
ごはん大盛り無料!(喜) |
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| 日本初の企業田涵養農家、宮川さん |
収穫祭の様子も掲示され |
試食会参加者一同 |
試食時は、今回主役の宮川さんも参加されました。作った方から直接お米や農業のお話を聞きながら食べるのは、私にとっても意味があることで、うれしく聞きながら食べました。宮川さんは今回の涵養プロジェクトへ、最初に手を上げ参加された喜びを感じられただろうと思います。
さっそく宮川さん、お隣のJAさんや土地改良区の方からも次の話が出ていましたので、来年度はお米の方も参加農家が増えるのではなかろうかと期待が持てます。
気持ちもお腹もいっぱいの昼食になりました。改めまして、熊本市民に代わって、関係者の皆様へお礼を申し上げたいと思います。
●来期からは・・・
5/31(土)の熊日新聞朝刊では、 「熊本市が大津町、菊陽町、熊本県やJA菊池、土地改良区と「白川中流域水田活用推進協議会(仮称)」を発足させ、2004年から事業スタートする」とありました。
http://kumanichi.com/news/local/main/200305/20030531000063.htm
上記の契約が単年度であることから、この協議会へSonyさんやその他の地下水保全を考える企業も、参加していくことになるのではないかと予測しています。